食事と図書 雨風食堂

2024-10-17

『庭に埋めたものは掘り起こさなければならない』刊行記念
傷を持ちながら、生きることを続ける

2024年10月、『庭に埋めたものは掘り起こさなければならない』が刊行されました。
この本の著者齋藤美衣さんは、自閉スペクトラム症の傾向に加えて、急性骨髄性白血病、摂食障害などの経験を重ねてきた方なのですが、自殺未遂からの精神科病院への措置入院を機に、「もう書く以外に生きる道はない」と決意し、本書の執筆を開始されました。

多くの人が傷を抱えながら生きる現代、それでも生きることを続けるとはどういうことでしょうか。回復とはどのようなことなのでしょうか。
本イベントでは、みなさまとの対話を大切に生きることについて考えて行きます。

庭に埋めたものは掘り起こさなければならない

齋藤美衣

2,200円 (本体2,000円+税)
出版社:医学書院
A5/216頁
978-4-260-05766-0

壮大な勇気をもって「自分の傷」を見ようとした人の探求の書。

自閉スペクトラム症により世界に馴染めない感覚をもつ著者。急性骨髄性白血病に罹患するも、病名が告知されなかったことで世界から締め出された感覚に。周囲の期待に応えて残る人生を終える予定だったが、白血病は寛解し、「生き残ってしまった」なかで始まる摂食障害と、繰り返し見る庭の夢。しかし、「もうそのやり方では通用しないよ」と告げに来るものが……。壮大な勇気をもって自分の「傷」を見ようとした人の探求の書。トラウマと回復についての示唆を与えてくれる。

【この本を読もうとしてくださっているあなたへ】

2022年の春のこと。わたしは主治医の勧めでカウンセリングに通い出した。初回、カウンセラーから「なぜカウンセリングに通おうと思ったのですか」と聞かれた。そのときわたしは「合法的な安楽死がないから、仕方なく」と答えた。ひどい答えだと自分でも思った。でもこれが偽りない実感だった。
わたしは毎日やってくる「死にたい」に対峙する気力ももうほとんどなくて、つらくなく痛くなく早く死んでしまいたかったのだ。そのときわたしがいちばん欲しかったのが、合法的な安楽死だった。今思えば、わたしはぎりぎりでもうどうしたらいいのかわからなかった。

この本は、なぜわたしに「死にたい」が毎日やってくるのか、その理由を探すために、目的地も見えぬなか歩み出した旅の記録だ。わたしには書くという作業が必要だった。必要というより必然だった。書くことを通してでしか、〈自分〉という未踏の地に足を踏み入れる勇気を保つことはできなかった。
そしてわたしはこの本を、半分はわたし自身のために書いたけれど、もう半分は今この文章を読んでくれているあなたのために書いている。これはわたしの物語だが、同時にあなたの物語でもある。

この本を書くことを通じて、わたしは何度も世界と新しく出会いなおした。今もそれは続いている。「世界と出会い直す」ということは、「わたしと出会い直す」ということだ。この本を書きながら、わたしはわたしを何度も見つけ、確かめ、抱きしめた。この作業はわたしのものではあったが、同時にこの本を読んでいるあなたのものでもあると思っている。

どうか、世界と、自分と出会い直すこの旅に、あなたも伴走してもらいたい。今、そう願っている。あなたがいればとても心強いから。もしあなたがかつてのわたしのように、苦しさの中でどうしたらよいかわからなくて途方に暮れていたとしたら、ぜひわたしと共に旅に出てほしいのだ。その過程で、もしあなたがなんらか「世界と出会い直す」ことができたならば、この記録を残してきた者として、これほどうれしいことはない。

— 追記 —

トークイベント当日、11月発売の齋藤美衣さんの初めての歌集「世界を信じる」も直接お持ちいだけることになりました。ご希望の方はご購入いただけます。

「はじめて短歌を作ったのは十四歳でした。白血病の治療で入院中のことです。成人まで生きられないと思っていたわたしにとって、その時から短歌は唯一の友達のようなものでした。以来ずっと歌に頼ってきたように思います。
はじめて歌を作ってから、今年で三十四年になりました。十四歳から現在に至るまで長い晩年を生きていたような感覚がありましたが、そんな中でもわたしは確かに生きて歌を作ったのだと実感したとき、作品をまとめたい、歌集を刊行しようと思いました。
三十代はじめの二〇〇七年から二〇二四年までのおよそ十七年間の作品をおさめました。
この本をお手に取ってくださるならば、こんなにうれしいことはありません。」

–齋藤美衣さんより

斎藤美衣歌集『世界を信じる』

2,970円(税込)
典々堂

まっすぐな心がまっすぐに世界を見つめる。生きるとは、手足を動かすこと。歩いて、食べて、誰かを思うこと。世界に触れて、世界の一部になること。齋藤美衣の歌は、心と体と言葉と歌が一体になる喜びを伝えてくれる。
(大松達知・本書「帯文」より)

【5首選】

名刺二枚かさねて仕舞ふ ゆふがたのかばんの底でもう落葉だらう

冬をする けふは一人で冬をする 金木犀はだまつてなさい

母さんと呼ばれてはい、と返事して。返事して、返事して、もう夕映え

右足のいつもほどける靴紐を結びなほして世界を信ず

きみの書く「衣」の字はいつもやはらかい わたしはすこしやはらかくなる

///  ゲスト  ///

齋藤美衣(さいとうみえ)

作家・歌人
1976年、広島県生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒。
4歳ごろから他者に「言葉が通じない」感覚を持ち、外部とつながることを難しく感じる。聴覚、視覚、感覚過敏のため、日常生活で日々困難を感じる。14歳のとき急性骨髄性白血病で1年間の入院生活を送る。19 歳から摂食障害を発症し、以降断続的に精神科にかかる。30代前半から半ばにかけて精神科への入退院を繰り返す。現在、自己認知している診断名は、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、適応障害、複雑性PTSD。
14歳の白血病の入院中に『サラダ記念日』を読んだのをきっかけに短歌を作り始める。2022年、短歌作品「蚱蝉」30首でO先生賞を授賞。2024年10月第一歌集『世界を信じる』を出版。

///  日時・ご予約  ///

開催日 2024年11月3日(日)
時間 OPEN 15:00
START 15:30
CLOSE 17:00
※終了後にご希望の方のみデザートタイム
(ドリンク・デザート代別途)
場所 食事と図書 雨風食堂
参加費 1,500円
ご予約申込

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